住宅用太陽光発電
さまざまなメディアで話題になっている、太陽光発電の設置義務化。お引越しや新築の購入を検討されている方などは特に気になるところでしょう。「一体いつから義務化されるのか?」「そもそも本当に義務化されるのか?」本記事では、こういった疑問にお答えしながら、太陽光発電の設置義務化について解説していきます。
太陽光発電の義務化は、脱炭素社会に向けた政策の一環です。
国土交通省、経済産業省、環境省の3省は、2018年に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表しました。
その中には「将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の1つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取組を進める」とあります。
また、東京都も2021年に「新築住宅への太陽光発電の設置義務化を検討している」と発表。さらに、太陽光で発電した電気を蓄える蓄電池の設置に対して補助金制度も導入しました。
このように、太陽光発電の義務化については国や自治体が積極的に検討しているが、あくまで検討段階だということです。
では、なぜここまで太陽光発電の義務化が重要視されているのか、その背景について詳しく見ていきましょう。
「二酸化炭素の排出量削減」が世界の最重要課題の一つに挙げらているのは周知の事実でしょう。
ちなみに、2018年の世界全体の二酸化炭素排出量は約335億トンです。そして国別の割合は以下の通り。
順位 | 国 | 割合(%) |
---|---|---|
1 | 中国 | 28.4 |
2 | アメリカ | 14.7 |
3 | インド | 6.9 |
4 | ロシア | 4.7 |
5 | 日本 | 3.2 |
6 | ドイツ | 2.1 |
7 | 韓国 | 1.8 |
8 | カナダ | 1.7 |
9 | インドネシア | 1.6 |
10 | メキシコ | 1.3 |
このように、日本は世界で5番目に二酸化炭素排出量が多い国であり、その排出量は10億トン以上に上るのです。
こうした状況を踏まえ、日本は「2050年度の温室効果ガス実質ゼロ」を宣言。
そして、その宣言を実現するために、日本政府は再生可能エネルギーの普及に尽力しています。
日本で再生可能エネルギーを考えるのであれば、太陽光発電は欠かせません。
そこで、まずは国や自治体の庁舎といった公共施設や農地などに太陽光パネルが設置されていきました。
続いて、設置場所として候補に挙がったのが一般住宅でした。
しかし、立地条件や費用負担の問題によって設置件数は伸び悩みます。
そこで政府は、一般住宅に対し「太陽光パネルの設置義務化」を提案しているのです。
まずは、太陽光発電の義務化についての直近の動向を見ていきましょう。
2021年4月、第1回となる「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が開催されました。ここでは、新築住宅に対する太陽光発電パネルの設置義務化について、「積極的に行うべき」「慎重に行うべき」の2つの意見に分かれます。
2021年6月、政府は太陽光発電パネルの設置義務化について、「国や自治体の公共施設では設置を義務化し、住宅への義務化は見送りとする」と発表。
なお、同時期に温室効果ガス削減の工程表である「地域脱炭素ロードマップ」も提示されました。そこには、2050年度の実質ゼロ達成に向けた中間目標として、2030年度の削減目標を2013年度比で46%削減に設定すると明記。
では、太陽光発電パネルの設置義務化の行方について、一般住宅と公共施設とに分けて詳しく説明していきます。
2021年時点では、一般住宅における太陽光発電の設置義務化は「見送り」という結果になりました。
国土交通省が「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(第4回)」で取りまとめた素案の中に、新築住宅への太陽光義務化は明記されていません。
ちなみに、環境省からは住宅やビルに対する太陽光発電設備の取り付け義務化案が出されていました。
しかし、「長い目で見て、太陽光発電を住宅に設置することは必要だと思うが、なかなか一挙に義務化は難しいだろう」といった慎重な意見が多数を占める結果に。
また、「現時点ですぐの義務化が難しいとしても、2025年に義務づけを導入する、あるいは遅くとも2030年に義務づけを導入するという、その将来時点での義務づけを明記してほしい」といった意見も挙がったようです。
このように、「太陽光発電の必要性は認めるも、義務化の実現には施主に対する財政支援措置など、さらなる政策の充実が必要」というのが共通認識であり、政府の方針なのです。
まずは、2030年の目標として「新築一戸建て住宅の6割に太陽光発電設備導入」が掲げられています。そのため、一般住宅における太陽光発電義務化の実現は、早くても2031年以降と予想されています。
公共施設に対しては太陽光発電の設置義務化が決定しました。
国や地方自治体が所有する公共施設の建物や土地が対象となり、太陽光パネルの設置が進められます。
政府は2030年までに公共施設の50%に太陽光パネルを導入すると明言。さらに、2040年までに100%の導入を目指すと発表しています。
ちなみに、こうした太陽光発電設備の拡充は、送電線の接続不良問題の解決策としても期待されています。
ここまで、太陽光発電の義務化についての動向や方針を見てきました。
では、それによって社会にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
一般住宅と公共施設とに分けて、具体的に説明したいと思います。
住宅業界では、国土交通省の主導のもと、太陽光発電をはじめとした再エネ設備を推奨する動きが強化されます。
例えば、住宅情報サイトなどが住宅の販売や賃貸の入居広告を出す際に、年間の光熱費の目安を表示したり、住宅の省エネ性能を星印で表示したりする制度が2022年4月より実施予定です。
このように、より省エネ性能の高い住宅が選ばれるためのアピールや情報が増えていくでしょう。
そのため、これからは光熱費の安い分譲住宅が人気になると予想する声も聞かれます。
また、断熱性の高い集合住宅の入居率が高まり、マンション等に太陽光発電パネルを自主的に導入する事業者が増えることが予想されています。
ちなみに、マンションの区分所有者あるいは賃貸人が個人的に太陽光発電装置をベランダやバルコニーなどに設置するケースもあるようです。
ただし、ベランダやバルコニーは原則としてマンションの共用部分なので、設置の可否は管理組合に必ず確認しましょう。
太陽光発電の義務化が決定したことにより、自治体によっては公共施設を新築する場合に資金問題が発生するでしょう。
そこで、公共施設ではPPA事業者の介入が増えるだろうと言われています。
PPA事業者とは、施設所有者から提供された敷地や屋根などのスペースで、太陽光発電設備の運用・管理を行う会社です。
ちなみに、自治体がPPA事業者を利用するプランは「地域脱炭素ロードマップ」にも入っています。
さて、以上のように一般住宅においても公共施設においても、太陽光発電義務化の対策が取られると予想されます。
ただ、2030年まで温室効果ガス46%削減という政府目標を達成するには、公共施設だけでは十分と言えません。
ですから、現状では住宅や民間企業の太陽光発電義務化は先送りが続いていますが、将来的には義務化される可能性は高いです。
住宅を購入する際は太陽光発電を設置しておくと、将来的に資産価値が上がるかもしれませんね。